衆議院議員選挙のしくみ
衆議院の解散
日本の国会は衆議院と参議院から成っており (二院制)、それらの構成員である国会議員を選ぶのが衆議院議員選挙 (衆院選)、参議院議員選挙 (参院選) です。
参議院議員の任期は6年で、3年に一度、議員の半数を改選します。衆議院議員の任期は4年で、そのたびに議員全員を改選します。
しかし衆議院の場合、4年の任期の満了を待たずに内閣総理大臣が解散させることができます。したがって総理は、選挙を有利に進めるべく、自勢力が勝てそうなタイミングを戦略的に見計らって衆議院を解散させるのが通例です。(戦後、任期満了により解散なしに衆院選が行われたのは、1976年の一度しかありません。)
前回の衆院選は2017年10月に行われましたから、今年の10月までのどこかで衆院選が行われることになります。本サイトは、この来たる衆院選に向けた情報サイトです。
衆院選の2つの制度
衆院選は小選挙区制と比例代表制の2つの選挙制度により行われます (小選挙区比例代表並立制)。つまり、投票所では投票用紙を2枚書くことになります。
衆議院議員の定数465名のうち、小選挙区制により289名を、比例代表制により176名を選出します。
小選挙区制
各小選挙区の有権者数がある程度近くなるように全国に設けられた289の小選挙区において、それぞれ1人の議員を選出するのが小選挙区制です。得票数が最も多い候補者が当選します。
この制度の欠点は、死票と呼ばれる、結果に反映されない票が多くなってしまうことです。たとえば、候補者Aさんが51%, 候補者Bさんが49%の票を獲得した場合、当選するのはAさんだけですから、49%の票は議席に反映されなくなってしまいます。
しかしそれ故に、上位2名の得票数が拮抗していれば、ほんのわずかな得票数の変化で逆転が起こります。各選挙区でこうした現象が起これば、全国での各政党の得票数が大きく変わることになります。小選挙区制には、このような形の政権交代を起こりやすくし、二大政党制 (政権を担う選択肢となるような大きな政党が2つ存在する状態) を促進する効果があります。
古い例ですが、2005年の衆議院選挙で第一党 (一番議席数を得た党) の自由民主党は、全国48%の得票で、小選挙区制による議席の73%を得ました。その次の2009年の衆議院選挙では民主党が第一党を奪いましたが、この時も全国47%の得票で、小選挙区制による議席の74%を得ています。このように、多くの小選挙区で少しでも追い越せるなら、飛び抜けた強さでなくても多くの議席を得られる制度なのです。
もっとも、この制度が導入されて25年近く経ち、衆議院選挙は8回行われましたが、自由民主党以外が第一党となったのは2009年の一度のみでした。2012年に民主党が下野 (政権与党を維持できず、野党に下ること) してから、自由民主党に対抗する勢力は中々まとまらず、「自民一強」とも呼ばれる状態が続いてきました。2020年の立憲民主党結党によって、野党第一党が衆院100議席以上を占めることになりましたが、これは2012年以来9年ぶりのことです1。
比例代表制
政党名を書いて投票する制度です。したがって、どの政党にも所属していない (無所属) 候補者は、この制度では当選できません。 小選挙区に立候補した候補者も比例代表制の候補になることができます。そうした立候補は重複立候補、逆に比例でしか立候補しない候補者は比例単独候補などと呼びます。
各政党の得票数をもとにドント式という方法を使って、176名の議席を配分します。小選挙区制と異なり、議席数はほぼ得票率に「比例」し、少数派の政党でも得票数に応じた議席を得られます。
各政党は事前に候補者に順位をつけた名簿を提出し、たとえば50の議席が得られれば、小選挙区制で当選した候補者を除いた上位50位までの候補者を議員にすることができます (拘束名簿式)。つまり名簿を見れば、その政党が誰を優先的に当選させたいと思っているかがわかります。
同順位の候補者を複数置くこともできます。その場合、小選挙区での戦績の惜しさ (惜敗率) の順に当選します。
このように、日本の現在の選挙制度は、二大政党制を促進する小選挙区制を中心としつつ、多党制を促進する比例代表制をも併用した制度になっています。
選挙協力のしくみ
現実には日本では二大政党制は確立されておらず、多くの政党が活躍しています。しかし衆議院選挙で小選挙区制を上手く利用して勝つためには、各選挙区で似たような候補者が複数擁立することを避け、候補者を「一本化」することが重要です。票が分散してしまうと、多数派になれる可能性が大きく下がるからです。そうした理由で行われる協力を選挙協力などと言います。
たとえばある選挙区で、A党の候補者A、B党の候補者B、C党の候補者Cが立候補していて、それぞれ 45%, 40%, 15% の支持を集めているとします。当選するのは1人だけなので、この場合候補者A が当選します。
しかしB党とC党は色が近いので、たとえば候補者Cが立候補を取り下げ、支持者に候補者Bへの投票を呼びかければ、候補者Bが当選する見込みがあります。
もちろん、党が違うことにはそれなりの理由がありますし、各党には譲れない立場、各候補者には譲れない政治生命があるので、選挙協力は簡単なことではありません。しかし協力に成功すれば、得られる票数が大きく変わり、また死票が減るため、より民意に応えることができます (上の例では死票が55%から45%に減っています)。逆に、元・多数派である政権与党に対抗する勢力が分裂しているような状態では、相手を利することにしかなりません。
上の例ではC党が損するだけですから、協力を実現するためには、何らかの条件が必要です。具体的には、次のような協力があり得ます:
- 各選挙区で擁立を譲り合う。C党が擁立したい選挙区にはB党は擁立せず、支持者に候補者Cへの投票を呼びかける。
- B党は、擁立が被ってしまうC党に擁立を取り下げてもらう代わりに、有権者に「比例はC党へ投票してください」と呼びかける。
- もし政権与党になることができたら、連立政権を組む (一緒に政権を担う)。国務大臣 (閣僚) のポストを適宜譲り合う。
- 政策で歩み寄る。譲れる部分は譲り、譲れない部分もなるべく話し合う。(もし対立が収まらず「連立を抜けます」と言われてしまえば、政権へのダメージは甚大なので、譲歩せざるを得ません。)
どれも苦しいことですが、うまく穏健な協力関係を結べれば、選挙に強くなれるのみならず、政権を勝ち取ったあとの政権運営もスムーズになります。
現実の選挙協力
現在の与党勢力である自由民主党 (自民党) と公明党は、2000年から選挙協力を始め、今に至るまで強固な協力関係を結んでいます (自公連立政権)。2003年以降、同じ小選挙区に両党の候補者が出馬したことはありません2。また、小選挙区で公明党の支援を受けた自民党候補が「比例は公明へ」と呼びかける場合がしばしばあります23。
現在の野党勢力のうち、立憲民主党、国民民主党、社会民主党は、現在の形になってから日が浅く選挙協力の経験はありませんが、考えが近いため、選挙協力が検討されています14。また日本共産党は立憲民主党と近い部分もあるため、同様に選挙協力が検討されています14。れいわ新選組も協力する可能性を示唆しています56。
長く強固な協力を結べている自公とは対照的に、これまで野党勢力はなかなか上手い協力関係を結べませんでした。しかし、昨年の立憲民主党の結党により野党第一党が9年ぶりに衆院100議席を超し1、他の野党も協力に前向きになっています4。野党間の選挙協力は「野党共闘」とも呼ばれ、その行方が注目されています。
選挙協力の行方は、本サイト上の地図でわかりやすく見守ることができます。小選挙区総合ページの「全国地図」や、各都道府県の小選挙区ページで、色々な塗り方を試してみてください。候補者が競合している選挙区は黒色になります。
国政はひとくくりに語られがちですが、実際のところ、地方によって各政党の関係や支持され度合いは大きく違います。そうした傾向もぜひ探してみてください。
- “立憲民主党は旧立民と旧国民民主党との合流で現有100議席を超す勢力になった。衆院選で100人を超す野党第1党が与党に挑むのは12年以来9年ぶりとなる。国民民主党や社民党と合わせて衆院定数の過半数にあたる233人以上の擁立を目指す。小選挙区に125人の擁立を決めた共産党との調整が課題となる。現時点で67の選挙区で競合する。立民の枝野幸男代表は「50~100ぐらいの小選挙区候補を一本化する努力をしたい」と語る。” 日本経済新聞『与党、10小選挙区で調整急ぐ、次期衆院選、立民200人、共産とも競合、維新、100人規模めざす。』朝刊2ページ。2021年1月4日。↩
- 中北浩爾『自民党 ―「一強」の実像―』中公新書、2017年。pp. 145-155.↩
- 朝日新聞朝刊オピニオン『(あすを探る 政治)自公連立20年、野党は学べ 中北浩爾』2019年1月31日。↩
- “立憲民主党などの野党は次期衆院選に向けて候補者の一本化を目指す。国民民主党や社民党に加え、共産党も含めて選挙区をすみ分ける。(中略) 立民の枝野幸男代表は11月、衆院選について「50~100ぐらいの小選挙区候補を一本化する努力をしたい」と表明した。全289小選挙区のうち勝ち目のある場所に重点を置いて各党と調整する。10月には共産の志位和夫委員長、国民民主の玉木雄一郎代表、社民の福島瑞穂党首と都内のホテルで会食した。「選挙区調整をしっかりやる」と確認した。” “9月の首相指名選挙では野党共闘の効果が目に見える形で表れた。立民の要請に応えて共産、国民民主、社民などが枝野氏に投票し、衆院での得票は134票だった。共産が他党候補に投じるのは22年ぶりだった。” 日経速報ニュースアーカイブ『野党一本化なら62議席上積み 政権交代へ足がかり狙う』2020年12月4日。↩
- 日本経済新聞『山本氏、減税発言を歓迎 枝野氏との共闘に含み』2020年9月4日↩
- “次期衆院選に向けて、立憲民主党などと候補者調整を模索する考えも示した。” 東京新聞『「私自身が出なければ始まらない」れいわ・山本太郎氏、次期衆院選出馬へ』2021年1月18日↩